たったひとつの扉からいろいろなものが取り出せることを私は知っていた。宮下 奈都著『スコーレNo .4』

書き出し部分
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薄暗い穴倉のようなところから空を見上げている。丸く切り取られた空が光る。瞬きのたびに、瞼の裏に光の文様が浮かぶ。ネガフィルムのように反転した景色と、湿った土の匂い。私の最初の記憶だ。
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この文章に引き付けられた。
主人公の津川麻子は骨董屋の三姉妹の長女。
英語が取り柄だが、自分に自信が持てない。貿易会社に就職したが、輸入靴店に出向。二年後会社に戻り、イタリアへの買い付け出張。楽しさを知る。最終部分。

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いろんな引き出しが必要だから雑食でなければならないのだと上司に諭されたとき、私は反論できなかった。今なら、違うとはっきり言える。たったひとつの扉からいろいろなものが取り出せることを私は知っていた。
どうしても忘れられないもの、拘ってしまうもの、深く愛してしまうもの。そういうものこそが扉になる。広く浅くでは見つけられなかったものを、捕まえることができる。いいことも、悪いことも、涙が出そうなくらいうれしいことも、切ないことも、扉の向こうの深いところでつながっている。
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(宮下奈都著『スコーレNo.4』2007.1.25初版第1刷。2007.5.30第2刷)

初めての作家の小説。いいものに出合えた。

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